チェンタンニ

 仕事で初めてチェンタンニに泊ったのは1994年の秋だった。フィレンツェに住んでいた1年間(1992〜93)は、日本から訪ねてくる人がいると、よくここのレストランに案内した。ガラス窓の前、またその向こうに見える景色は、トスカーナそのもので言葉に尽くせない。チェンタンニはレストラン、ホテル、それに長期滞在者用のレジデンスの三つの施設からなる。94年秋にレジデンスが完成し、2000年には大きな納屋を全面改築したホテルがオープンした。レジデンスの最初の宿泊者は僕だったそうだ。5〜6年前に小規模のゴルフ場もできた。
 いつも借りる部屋は、レジデンスの28か29番で、春先と夏は29番にしている。桜の季節には、雪を残したアペニン山脈がボローニャの方向に見える。夏は、この部屋が北に面しているので涼しい。98年からは自分の車も預かってもらうようになった。2001年に車を買い替えた時、チェンタンニの主人のジョヴァンニが、僕のフォードを買い取ってくれた。今もこの車は健在だ。新しく購入したステーションワゴンも彼に面倒をみてもらった。
 予約しておいた日に到着すると、部屋の中に僕の家財道具(?)がすでに入れてある。コンパクトオーディオ、電器炊飯器もテーブルの上に置かれている。これらをいつもの位置に収めると近くの生協に出掛けて、水、果物など最低限の食料品を買ってくる。朝、自分が食べるものを確保すれば、あとはもう考えなくてもいい。時差がひどい時は、車の運転が怖いので、翌日の仕事はしないようにしている。まずは、周辺のワイナリーから回り始める。だいたい1時間で行ける距離にあるので、昼食に合わせて11時頃に出発。駐車場には、たいがいチェンタンニの誰かがうろついているので、いつからか行き先を告げる習慣ができた。ワイナリーでは車の運転もあるので、グラス一杯以上のワインを飲むことはない。開けたワインは、持ち帰ってチェンタンニのレストランで夜また試飲する。
 いつもシルヴァーノが感想を言ってくれる。彼はジョヴァンニの長男。昼間はゴルフ場で土にまみれて力仕事をしているが、夜はレストランで接客をしている。彼は体験を積んだ「バッジなし」のソムリエで、サンジョヴェーゼを知り尽くしている。夜、レストランで卓に着くと、「今日の収穫は?」と訊いてくる。ときどき客が残したワインも飲ませてくれる。これがワイン体験を広げた。シルヴァーノは「水みたいものだから」と言って、白ワインにはほとんど関心を示さない。フリウリから白ワインを持ち帰っても「イタリアは広いんだね」でおしまいだ。
 2000年と記憶しているが、オリーヴ畑の片隅に桜を植えた。この桜の満開はまだ見たことがない。幹も太くなってこれからが楽しみ。何と思ったのか最近、シルヴァーノはこの桜の木の前に僕の名前を書いた石を置いた。
 チェンタンニの人々にも、エトリヴァンは支えてもらっている。感謝したい。
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