消えたワイン

 かれこれ10年前になるだろうか。いやおそらく、15年近く前の話になるのかもしれない。必ずと言っていいくらいコンテナから積み荷が盗まれた。それでも、盗まれるものはスプマンテかグラッパに限られていて、ワインは珍しかった。ところがある時期を境にして、ワインが被害に遭うようになった。それも不思議なことに赤ワインばかりで、箱から引き抜くどころか、ケースごと盗まれた。一番ひどい時は110ケース(ボトルにして1320本)が盗まれた。内容はチェレットのバローロ、モンテヴェルティーネのペルゴレ・トルテ、タレンティのブルネッロで、明らかに狙われている感じだった。この事件を機にして輸送会社を変えた。新しい運送会社とはこういうことがたとえ起きても、後で検証ができるように取り決めを作った。まず船会社のコンテナヤードで空のコンテナーの写真を撮る。次に半分まで荷物を積んだ時点でもう一枚。さらにコンテナーの扉を閉める直前に一枚とる。その際には各アイテムにつき1ケースを扉の前に並べてもらった。12-13年前といえば、「トレビッキエーリ」だとか「ワインスペクテーターで90点」だとかのワインランキングが存在感を持ち始めたころである。高く評価されたワインを知ることは職業人として育つためにするべきことではあっても、これらのガイド本で高得点をとったワイナリーの門を叩いて、買い集めるのでは他人から「芸が無い」と言われても返す言葉がない。
 盗難にあったワインは、そういうガイド本の常連メンバーで、日本でも知名度がすこぶる高かった。あれらのワインは一体どこに消えたのだろうか。今はスーパートスカーナひとつを例にあげても、たくさんの「トレビッキエーリ」があり、狙う側としてはどのワインにするか、戸惑ってしまうのではないか。