ロンコ・デル・ニェミッツ(Ronco del Gnemiz)

Eco Friendly ワイン



ニェミッツ・エコ

 このワイナリーとは1990年の4月から取引がある。ここのワインを知り尽くしたつもりでいたが、実は最近そうでもないことが分かった。ワインを造っているのはセレーナという女性。最近ニェミッツのワインのラベルにEco Friendlyと印刷されているのに気が付いた。1年くらい前に彼女の口から、意外にも自分のワインは「ビオ」とは名乗ってないが、ほぼそれに近いものだと聴かされた。彼女の話の趣旨は、自分は日常生活ではビオ信奉者だが、それをワインに徹底するのは難しいので、Eco Friendly止まりでいいということらしい。僕には無知な領域の話なので書き様がないが、セレーナが標榜するEco friendly ワインとは、「良識的農業」に徹してワインを造ること。具体的にはできるだけ無農薬に近いぶどう栽培に徹して、環境を汚染しないで造ったワインがEco friendly ワイン。消費者は各々の思いでワインを選べるが、造る側はぶどう畑に囲まれて生活しているので、環境は選べない。「自分たちの生活環境を考えたら、化学的なものはできるだけばらまかない方がいい。でも自分のワインは醸造工程で二酸化硫黄を使っているので、ビオワインとは呼べない」と彼女は言う。発酵もすべてバリックでおこなっているので、エネルギー消費も少ない。
 それではニェミッツのワインを見ていこう。とにかくここのワインは長命だ。2008年の暮れにシャルドネ1991年を2本試しに開けた。健康年齢は失いかけていたが、充分に楽しんだ。味覚は主観の領域で、美味しいかどうかは個々人によって異なる。セレーナの白ワイン(シャルドネ、ソーヴィニヨン)は保管に気を付ければ、つまり一日の温度変化が少ない暗い場所に置いておけば、収穫年から10年くらいまでは美味しく飲める。もちろんそれ以降も楽しめるが、コルクの劣化も始まってくるのでいわゆるボトル差も出てくる。一口に10年というが、決して短い時間の区切りではない。2009年11月に行った時に、1991年ヴィンテージの話をしたら、セレーナは1988年マグナムを試しに開けてみようかと訊いてきた。次の機会に日本から同じものを持って来て比較してみようということになった。
 セレーナのワインが長命であることの説明にならないかもしれないが、以下のことを書いておきたい。ニェミッツのぶどう畑は南、南西に向いたところが多い。夏はかなり暑くなるが、直線20キロで海になるので常に風はある。晴れて湿度の少ない日にはアドリア海が見える。海からの風は重要な役割を果たす。フリウリ地方の冬はかなり寒い。春はとにかく雨が多い。秋も年によってはうんざりするくらい降雨の日が続く。それでも海からの風が濡れたぶどうを乾かす。風のある日に洗濯物がよく乾くことを考えれば、合点がいく。土地の人たちが「ポンカ(ponca)」と呼んでいる土壌は、粘土、砂礫、石灰土の組成から成る。ぶどうは水が嫌いなので、水はけのよい土地を好む。しかしどんな植物も水を飲むので、土は水分も留めておかなければならない。粘土質はその役割をはたしている。ニェミッツのぶどうはこんな環境で栽培されている。シャルドネ・ソル2006年は横浜でもセレーナの家でも飲んでいる。時間の流れとともにこのワイン独特の蜂蜜のようなアロマを獲得していくものと思われる。熟成が進んだものにはヘーゼル・ナッツのアロマを認めるものもあった。発酵から瓶詰の直前までバリックの中に入っているが、新樽ばかりを使っているわけではないので、樽香は薄化粧くらいの程度。果実味の際立った凝縮感は、ぶどうの樹齢にも関係する。最高樹齢は70年。人間、桜、ぶどうの寿命はほぼ同じらしいから、もうそろそろ植え替えの時期にきている。平均樹齢65年の畑はところどころ木がなくなってしまっている。ただ、この畑は1983年から借りているところで、それ以前に植えられた木の樹齢は不明だという。「ここだけのぶどうでワインを造ったらどうなるのかな」とセレーナに言ったら、「シャルドネ全体のバランスがとれなくなる」と返ってきた。若い木と老木から収穫された原料のミックスが、ニェミッツのシャルドネの良いところを造り出しているのだろう。20年近くここのシャルドネを飲んできた。その体験から考えると、2006年ヴィンテージは2021年くらいまでの健康年齢は充分にありそうだ。2006年に生まれた子供が中学校を卒業するまでの年月だから、これは短い時間ではない。
 ニェミッツのソーヴィニヨンは収穫年から4〜5年はひとまず待った方がいい。最近飲んだ1999年は醸造手法も違っているので単純な比較はできないが、2007年はもう少し長く楽しめると思う。自信を持って答えられる訳ではないが、発酵から熟成まで一貫してバリックでおこなったことが、一番の要因ではないか。この見解をセレーナにぶつけると、そういうこともあるが、様々なことが重なっていると言っていた。何か1つの要因だけでワインが様変わりすることはなく、ぶどうの樹齢の上昇、夏季のきつめの除葉、収穫時の厳しい選果などを例にあげた。セレーナのソーヴィニヨンの香りは青ピーマン、猫のオシッコ(?)の傾向だったと記憶しているが、最近はピーチ、アプリコットも感じられる。これは使う原料ぶどうのクローンの比率が違ってきているからだろう。ソーヴィニヨンの香りは独特のものがあり、飲む人の嗜好性により好き嫌いが分かれる。このぶどうの香りは古酒の領域に入っても紛れない。
 以下はしばらく余談。ソーヴィニヨンの名前は、フランス語の「ソヴァージュ(sauvage)」、つまり「野性」に由来する。シチリア島のタスカ・ダルメリータのノッツエ・ドーロ(Nozze d’Oro)は、1985年に初ヴィンテージが出たが、原料ぶどうはソーヴィニヨン・タスカと書かれていた。ところが最近はソーヴィニヨンではないことが分かり、「ヴァラエタル・タスカ」に変更した。あやふやな植栽の記録で自生していたぶどうをソーヴィニヨンと命名したのだろう。しかし、ノッツエ・ドーロには紛れもないソーヴィニヨンの香りはなかった。また今は呼称変更になったトカイ(現フリウラーノ)を地元のフリウリではソーヴィニァナサスと呼んでいた。トカイをソーヴィニヨンと考えているからだ。学術的なことは別にしても、僕はフリウラーノにソーヴィニヨンを想起させる香りを認める。
 ヴィーエ・ディ・ローマンスのピエーレ・ソーヴィニヨン(Piere Sauvignon)のようなスタイルに仕上がったソーヴィニヨンなら誰にでも好かれそうな気がする。確かピエーレは樽を使用していない。ソーヴィニヨンの特徴的な香りが良い感じで出ている。控え目な香りの連続は、一杯、もう一杯と誘ってくる。ついついこちらも誘いに乗ってしまう。先日もピエーレの10年以上たった古酒を飲んだ。「黙して敬礼」の一言。すばらしい液体だった。
 セレーナのソーヴィニヨン群の香りは変化に富んでいる。クローン由来の猫のオシッコ、ある時は青ピーマン。フリウリではこの系統が主流であったが、今は桃、アプリコットなどの果物系と入れ替わりつつある。一般的傾向として、果物系の香りを持つクローンのソーヴィニヨンが熟成の移りを楽しめる。くどくなってしまうが、収穫年から4-5年はお蔵入りをお勧めする。多分そのほうがワインにも飲む側にとっても幸せと思う。