オリーブオイルの話



 今でこそオリーブオイルは日本でも消費されるようになってきたが、25年前はその臭いに抵抗を覚える人が少なからずいた。ピュアオリーブオイルもエクストラ・ヴァージンもオーリオ・ディ・オリーヴァも、僕の頭のなかで整理されていなかった。オリーブオイルは熱と光に弱いのに、そんなことにはお構いなしに陳列されていた。このことは、今もそれほど変わってない。イタリアでも、スーパーや生協で光などは無視して並べられている。しかし、日本とイタリアでは商品の回転率が全く違う。日本では、黄色味を帯びたオリーブオイルが店頭販売の主流である。すべてが熱劣化や光で傷んだオリーブオイルとは言わないが、値段は高くなっても、遮光した瓶に入ったエクストラ・ヴァージンを買ったほうがいい。
 日本はオリーブオイルには関税を課してない。したがってワインと比較すると輸入時の負担はない。「消費期限」は厳密にはないが、「推奨賞味期限」がボトルに表示されている。瓶詰の日から180日となっている。搾りたてのオイルは深い緑色だが、これは時間とともに退色していく。オリーブオイルにもヴィンテージのようなものがあり、主に質的なものについていう。トスカーナではぶどう(ここではサンジョヴェーゼ)が終わって、二週間も経つとアドリア海側からトラモンターナという北風が吹き始める。例年だと11月の半ばだろうか。オリーブの収穫はこの時から始まる。このころになるとオリーブの実は水分も少なくなり、香味が増してくる。ぶどうの収穫が終わると秋雨が始まり、オリーブの収穫は天を仰いで晴天を願うことになる。雨が多い年のオリーブオイルは収量も少なくなり、香味も劣るという。
 20年以上、ジャーキ(Giachi)のオリーブオイルを輸入してきた。その間一度も品質の問題で困ったことはない。アルベルト、フランチェスコ兄弟で会社は運営されている。兄のアルベルトは、海外(主にヨーロッパ)の営業を担っている。弟は工場の中を切り回している。実は、ジャーキはオリーブ畑を所有していない。搾油もしていない。正確にはオイルのブレンダーで、毎年同じ畑から原料となるオリーブを買い付けて搾油所に持ち込んで加工(搾油)してもらっている。搾油施設を持つワイナリーからオイルを買い取ってブレンドすることもある。アルベルトは、父親から受け継いだブレンダーの技を今日に伝える。最近、法律が変わってオリーブオイルにも使用原料の原産地表示が義務付けられた。イタリア以外、多くはスペイン、ギリシャ、ポルトガルのオイルを混合しているものは、それも表示しなければならない。
 ジャーキのオリーブオイルは、たくさんのイタリア料理店で使っていただいている。特にトスカーナで修業を積んだシェフたちは好んでジャーキを使う。最近は料理教室からの注文が目立って多くなってきた。嬉しく思う。銀座のエノテーカ・ピンキオーリもジャーキを使っているが、エトリヴァンが輸入したものではなく、フィレンツエの本店から送られてきたものを使っている。シェフの好みに左右される難しい商品であるにもかかわらず、イタリア料理店でここまで広がった理由はなんだったのだろうか。
 オリーブオイルを軽く焼いたパンに少量をかけて食べるのが、ぼくは一番美味しいと思っている。ガーリックをすり込んでからオイルをかけて食べても美味しいが、後に続くワインの邪魔になる。