コルクについて



 コルク臭がワインに出ていることがある。ソムリエが抜栓時にコルクを鼻に当てるのは、ワインがコルク臭で傷んでいないかを確認する大事な作業だ。ワイナリーはコルクの購入には非常に神経質で、複数の製造業者から手当てしている。これは欠陥コルクのリスクを分散するためである。欠陥コルクは購入数量の約2パーセントくらいになるそうで、少ないとは言えない。しかし、実際にレストランで消費者がコルク臭で傷んだワインに当たることは珍しい。なぜなら、ソムリエがコルクに問題を感じた時は、そのワインを下げているからだ。
 抜栓直後のコルクに異臭がなければ、まずワインにも問題はない。だからソムリエは、みずから試飲はしない。しかし、ごく稀にワインにコルク臭が移っていることがあるから、客に試飲してもらう前にワインの健康状態を確かめておく必要がある。どうしてか分からないが、日本のソムリエはこのことをしてこなかったのではないか。客の試飲は、自分が求めたものに近いかどうかを確かめる意味合いが強い。逆にコルクに異臭があれば、ほぼ間違いなくワインにも臭いは移っている。したがって、コルクの状態を知ることは極めて大事なことだ。我々を悩ませる例は、コルクにこれといった問題がないにもかかわらず、ワインが何となく傷んでいるのではないかという印象を受けるケースだ。
 これは、最近体験した事例である。場所はバローロにあるラ・カンティネッラ(La Cantinella)というレストランで、写真のバローロ、バルトロ・マスカレッロ(Bartolo Mascarello)2004を注文した時のこと。最初の1本はコルクに問題はなかったが、神経質な日本のソムリエなら「コルク臭あり」とジャッジしそうなワインだった。バローロにはこういうことが珍しくない。疑問を解消するいい機会だと思って、もう1本同じものを注文した。これもコルクには問題がなく、ワインの内容も比較してどちらがどうということもなかった。強いて言えば、1本目のほうがやや酸味を感じた。1本目と2本目には微妙なボトル差を認めるが、コルク臭があるとまではいえない。店の主人にも試飲してもらったが、僕らと同じ印象だった。開けたバローロはホテルに持ち帰った。このホテルはバローロの生産者でもあり、ワインの取り引きもあるので主人のフランコ・アンセルマに試飲してもらった。ボトル差はあるが、コルク臭ではないと明言した。そしてコルクに問題がなければ、ワインにコルク臭があるはずがないともいった。ワインがコルク臭で傷んでいると断定するには、その証拠=コルクの異臭が必要だ。コルクに問題がない場合は「疑わしきは罰せず」の原則でジャッジするのがフェアに思われる。ただし、カベルネ・フランには注意を要する。この品種はもともと青味が強い。日照時間に恵まれなかった年のカベルネ・フランはさらに青味が強く、コルクにこのワインがしみ込んでいると、コルク臭と取り違える場合があるからだ。