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L'Apparita

ラッパリータ

ワイン体験がそれほど豊かではない時代に出会ったからこれほどまでに強烈な印象が残ったのか、それとも自分がメルロー好きだからなのか。このあたりは自分にも分からない。1987年ヴィンテージが日本に輸入されたころは、従価税も廃止されて高価なワインが市場に出回り始めていた。昔のことを書き出すときりがないが、このメルローは3700-3800円くらいでレストランに卸されていた。6本入りの木箱で入荷した。たぶん、このヴィンテージをエトリヴァンから買って、今も持っている人はいないだろう。自分のところにもない。
 蒲田の雑然とした倉庫で、僕の事務机を取り囲んでラッパリータを飲んだ人たちもいた。ワイン体験が浅く、それまでこういう質量の液体を飲んだことがなかった。リーデルのソムリエシリーズの大振りのグラスで来客に振る舞った。イタリアにそのころ旅をした人の話では、レストランで「ラッパリータ」と注文すると、「スパリータ」つまり「消えてなくなりました」という答えが返ってきたという。これも後から耳にした話だが、チューリッヒで開かれたメルローを知るワイン会で、ペトリュスより上にランクされたというから、やはりただものではなかった。以来、アーマとの取り引きが終わってからも機会あるごとにラッパリータを買って飲んできたが、最近はすっかり高くなって近づけないワインの1本になった。
 それぞれのワインには、新しい収穫の度に新しいストーリーが誕生し、味も微妙に変わる。これらを軽視してワインを語っても、見えてくるものは少ない。アーマの従業員食堂の長いテーブルで、シルヴァーノと向かい合ってたくさんのワインを試飲した。ワインの勉強はちょろちょろしても、それは「分かったような」気分になるだけと思った。あのころは泊りがけで、翌朝のカプッチーノも同じテーブルで飲んだ。
 以来、メルローを追いかけ続けてきた。たくさんのメルローを飲んできた。ラッパリータを金科玉条としてきたが、そろそろ卒業。文化とテロワールを考え始めると、バローロにいっそうの興味を覚える。