草創期▼
開拓期▼

Mastremilio

マストレミーリオ2007年
ボルゲリ (Bolgheri)の今を映すワイン



 マストレミーリオについて書こうと思って、初めて書いた案内文を探したがコンピューターからは消失していた。もしかしたらと思って蒲田の遺物堂を探してみた。机の上の紙の山から出てきた。「Mastremilio 2000」のタイトルが付いていた。たしか、2002年か2003年の頃だと記憶する。ただその案内文には日付が記してないので、どうもはっきりしない。
 6月の半ばに3年ぶりにこのワイナリーを訪ねた。アグリツーリズモの建物はリニューアルされて外も中も美しくなっていた。テレビ、電話が設置されていないのは昔と変わらない。オーナーのフランコによれば、ワインの生産量はここ数年で少し増えているが、販売先は、地場が半分、あとはアグリツーリズモでの自家消費と輸出で、その比率は変わってない。白ワインはほとんどが地元のリゾートホテルやレストランが買っていくそうだ。輸出先には若干の変化があり、伝統的なドイツ、スイス、ベルギー、日本に、新たにデンマークなど北欧諸国が加わっている。初ヴィンテージ2000年から直近の2007年までを毎年欠くことなく買い続けたのは、ドイツの一社とエトリヴァンだけだという。マストレミーリオは比較的高価なのでアグリツーリズモの泊り客の消費は少ない。フランコがアメリカには一本もワインを売ったことがないと言った時、「一本」に力が入った。イタリアワインの輸出先は、アメリカとドイツが圧倒的。アメリカは点数主義で、ワイン専門誌などで褒められない限り、バイヤーは手をつけない。
 ところで、マストレミーリオ2007年はどんなワインになったのだろうか。ひとことで言うと大きく変わった。セパージュに入れ替わりがあったからだ。カベルネ・ソーヴィニヨン70%, カベルネ・フラン10%, メルロー10%, プチ・ヴェルド10%が2007年からの混醸比率で、メルローが少数派になった。理由は気候の変化でメルローが過熟気味になるので、収穫時期が異なる他の品種との調整が難しくなったからだ。2007年は先述のセパージュで落ち着いたが、収穫年の作柄状況により対応していくと、醸造コンサルタントのガデンズ (Gadenz)は言っていた。カベルネが主体のワインとしては青味が表面に出てきてない。トスカーナ内陸部とは異なり、ぶどうが完熟するからだろう。嗅覚上のアタックに一瞬、菊の枝を折ったようなものを感じるが、口の中に流れると中程度のもたつきと入れ替わる。これはタンニンが熟成した少数派のぶどう3種類に起因するものと考えられる。前のヴァージョンと比較してワインは洗練されたと評価する。このことは後でも触れられていくが、ボルゲリ (Bolgheri)のテロワールの今を映しているともいえる。昼夜の温度差が小さくなり、サンジョヴェーゼの出来はよくない。フランコは香りに不満があるといっていた。
 ボルゲリの次の時代を拓くぶどう品種はプチ・ヴェルドだという。これはフランコとガデンズの共通認識だ。フランコは、ほぼプチ・ヴェルドだというワインをステンレスタンクから試飲させてくれた。ワインジャーナリズムが飛び付きそうなワインだった。フランコに「命名は」と訊いたら、「カプラレッチャ(Caprareccia)」と返ってきた。そもそもプチ・ヴェルドは本家本元のボルドーでも消えつつある品種で、混醸されても常にマイノリティで主役であったことはない。ところが、今ボルゲリでは急速に植栽面積が増えている。「一山百文」の地から無名の生産者が世界を窺うワインを問おうとしている。
 この話題を閉じるにあたり、3時間前に開けたマストレミーリオを再び口に流した。青味は消えていた。ボルゲリの今を知る格好のワインとして勧めたい。10年近くマストレミーリオを購入していただいた方々に改めて感謝します。フランコも同じ気持ちであると思う。

2010年7月15日
佐々木 仁