草創期▼
開拓期▼

Formiche

フォルミーケ

 イタリア語でformicheは「アリ」を意味する。名称から「小さくても力を合せて」自分たちが醸造に関わったワインを市場に知らせていこうという意気込みが伝わってくる。このグループを説明してみよう。メンバーは醸造家たちで、中には自分でワイナリーを経営しながら、外部コンサルタントとして働いている人もいる。彼らは契約先ワイナリーからコンサルタント料の一部を現物支給で受け取って、Formicheのブランドで販売している。ピエモンテでもランゲとモンフェルラート地域に彼らの仕事先が集中しているようで、今回販売されるものもその地域のワインが多い。
 2009年11月初めに、フォルミーケのメンバー二人に案内されてバローロ地域とアスティを回った。アスティを回った時、彼らの一人が紅葉したバルベーラの畑を前に「このままではアスティは森に戻ってしまう」と言った。
 バルベーラは安酒の象徴のようになっている。確かにミラノのスーパーの食品売り場をのぞくと、その価格の安さが目につく。ワイナリーが自分で瓶詰しないで、バルクで大きな醸造会社に売る場合、1リットル1ユーロくらいだという。つまりこういう価格では、ぶどう農家やワイナリーの生産意欲が著しく低下して、やがては畑が荒れて「森に戻ってしまう」と言いたかったのだろう。
 バルベーラはそんなに美味しくないワインなのだろうか。そんなことはない。どこにいっても廉価で売られているので、安酒のイメージがいつの間にか出来上がってしまった。アスティのレストランで昼食時に試飲させてもらったフォルミーケの2種類のバルベーラは、いずれも良くできていた。ベースのバルベーラのルビー色には驚いた。口当たりはスムーズだが、ほどほどの酸もあるので物足りなさはない。果実味も豊富。バルベーラ・ダルバは、この果実味にあふれた飲み易さに欠ける。もう1つのバルベーラ・スペリオーレは、バリックで14ヶ月間熟成させている。深紅の液体。樽熟成が長いのに酸が確保されている。これがワインの飲み心地をくどくさせていない理由と思う。バリックに由来しないと思われるヴァニラ香があり、好感がもてる。2種類のバルベーラを比較して飲むことをお勧めする。日本にはあまり輸入されていないワインで、「飲む側の準備」の醸成に一役立てればと願う。
 バルベーラを過小評価してはいけない。日本に戻って、蒲田の遺物堂から古酒となったバルベーラ2本を見つけて興味半分に開けた。コッポ(Coppo)のバルベーラ・ダスティ、ポモロッソ(Pomorosso)93年とブレッツァ(Brezza)のバルベーラ・ダルバ、カンヌビ95年で、結果にはただただ驚いた。「古くなったバルベーラは飲めるはずがない」と頭から決めつけていたので、ほったらかしにしてあったのだろう。2本とも健康年齢は高く、充分に楽しめる状態で、後者はバローロを想起させる要素も持っていた。以前に「バロレッジャンテ(baroleggiante)」というイタリア語をバルベーラやネッビオーロ・ダルバの解説で読んだことがあった。「バローロ風になった」とでも訳すのが適当なのかもしれない。年月を重ねてバローロ風に熟成したバルベーラやネッビオーロをうまく言い当てている。そもそもbaroleggianteは辞書にもない言葉。この職業について30年近くになるが、ワインとして体験したのは今回が最初だった。ポモロッソはカンヌビのような枯れた姿ではなく、もう少し元気でいられそうな感じで、液体の厚みはとても15年前のものとは思えなかった。
 バルベーラはモンフェルラート起源のぶどう品種といわれる。バルベーラ・ダスティはもっと評価されていいと思う。しかし、10年以上の熟成を期待するのは無理。それを求めるならバルベーラ・ダルバという選択肢がある。安くて飲み心地の良さを求める人に迷わずにバルベーラ・ダスティを勧める。僕が初めて飲んだバルベーラは、ブライダのブリッコ・デル・ウッチェローネで、少なくとも20年前になる。このぶどうに特有のややとがった酸味をバリックで上手に和らげていた。迷わず輸入した。今の時代、このようなワインは市場にたくさんある。ブリッコ・デル・ウッチェローネは素晴らしいが、誰もが迷わず簡単に手を出せる価格ではない。余談になるが、ぶどうの紅葉の美しさではバルベーラが随一。秋のモンフェルラートの丘陵の美しさは格別だ。
 Formicheにはバローロもある。このバローロは若いのに非常にとっつきがいい。かなりの数のバローロに接してきたが、ここまでバリアフリーなバローロも珍しい。ぶどう(ネッビオーロ)の収穫地は、ラ・モルラとモンフォルテである。セルラルンガのネッビオーロと比較するとおとなしい。セルラルンガのバローロは男性的なタンニンが特徴で、収穫年にもよるが、平均的には8-10年の年月をかけて飲めるようになる。フォルミーケのバローロは、これらと比較すると若いうちから飲み易い。思わず,「中はネッビオーロだけ?」ときいてしまった。「Certo!(チェルト)」、 つまり「もちろん!」という答えが即座に返ってきた。バリックを使用して早い熟成をねらったものでもないのに、バローロに固有の頑固なタンニンはソフトになっていて、ワインの王者、あるいは北限の巨人、バローロの風貌はない。しかし、力強いアタックはバローロそのもの。バローロとしてのキャラクターは備えているので、バローロ入門に推奨する。不振が続いたバローロはイタリアでは復活したと耳にするが、それは都市部の若者たちが消費に加わったからだといわれる。彼らが接近したバローロはタンニンがありながらも、とっつきの良いものであった。そういうバローロを僕は「シティ・バローロ」と勝手に呼ぶ。Formicheのバローロ像もこれに重なる。まずはこれから始めて、時間をかけてセルラルンガの頑固一徹バローロに到達しよう。僕自身もその途上にある。
 もうひとつ面白そうなワインに出会った。ランゲ・ロッソ(Langhe Rosso)で、ぶどう品種の組み合わせに惹かれた。混醸は、ドルチェット70%, メルローが20%となっている。混醸の組み合わせと比率からイメージされるワインは、かなりソフトな感じだ。ところが、試飲した結果はまるで違っていた。一般的には、ドルチェットは木樽で熟成させないが、17ヶ月間スロヴェニア産の大樽でねかせている。メルローは17ヶ月間、フレンチ・オークのバリックに入れている。さすが醸造家たちが経験と知恵を持ち寄っただけあって、醸造手法に興味を覚える。タンニンが少ないドルチェットには、大樽によるゆっくりとした熟成が合っているのだろうか。メルローに使用したバリックは新樽ではないと思われる。もしそうだとしたら、樽香がもう少し鮮明にでてくる。こういう素性の二つのワインをブレンドしたのが、このランゲ・ロッソ。深い赤はメルローに由来する。良好な口当たりは、タンニンが少ないぶどう品種同士の組み合わせの結果なのだろうか。テクスチャーの厚みもあるので、余韻もある。
 ドルチェットはネッビオーロよりも4〜5週間早く熟すから、よほどの悪天候でない限りヴィンテージによる出来、不出来はない。バローロの畑でドルチェットを見かけるが、それは北側が多く、ネッビオーロが熟しにくいところだ。ドルチェットがドルチェ(dolce)に由来することは明らか。ドルチェは「甘い」という意味。おそらく、酸味の強いバルベーラに慣れたピエモンテの人たちには、甘く感じられるのではないだろうか。完熟したドルチェットを畑でつまんでも、特別甘いという印象はない。
 ピエモンテの典型的な地場品種のドルチェットと、フランス原産のメルローの組み合わせは、ワイン生産に自由裁量度が少ないピエモンテに新しい風を吹き込むのではないだろうか。フォルミーケのランゲ・ロッソはそういう視点を持って飲んでいただきたい。

ご購入はこちらから