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Giachi

ジャーキ

 Giachi(ジャーキ)との歴史も長く、20年は越える。その頃は家庭でのエクストラヴァージン・オリーブオイルの消費は無かったに等しく、ほとんどのPrimo olio(プリーモ・オーリオ)はイタリア料理店で使ってもらっていた。今は特にトスカーナで料理修業した人たちの間で需要が多い。そして、どういう経緯か不明だが、最近は料理教室からの注文が増えている。嬉しく思う。僕はオリーブオイルについては詳しくない。むしろ無知そのもの。それでも20年間、何の問題もなく使われてきた事実は、ある意味で品質の証明になっているとも言えるのではないか。ラベルにSaporito(サポリート)とあるのは「はっきりした味」という意味で、香味にアクセントがある。ほろ苦さもこのオイルの良いところなのだろう。「推奨賞味期限」は瓶詰の日から180日。
 トスカーナのワイナリーで試飲する際には、塩分のないパンが用意される。昔フィレンツェに住み始めたばかりの頃、この無塩がダメで朝早くからパン屋に通った。塩が入ったパンは焼く量が決まっているのですぐ売り切れになるからだ。無塩パンは口の中をニュートラルにしてくれる。日本では食パンをトーストして、オリーブオイルを軽くかけて食べると美味しい。ジャーキのアルベルトは、昼ご飯に行ったレストランでも、パンに自分のところのオイルをたっぷりかけて食べる。これをトスカーナの人たちは「フェトウンタ」と呼んでいる。自分の家でいくらでも食べられるものを、なぜレストランで猛烈に口に運ぶのか、これが不思議だ。リグーリア地方やガルーダ湖のオリーブオイルは、デリケートでトスカーナの無塩パンとでは物足りないが、日本の食パンとは相性がいい。
 一口にイタリア産オリーブオイルと言っても地域によって異なる。700種のオリーブがイタリアには存在する。リグーリア地方は繊細な油、トスカーナは香りが濃厚。南イタリアのプーリア地方の油は香りも強いが、舌にやや苦味が残るなど特長が変わる。シェフたちは、それぞれのオリーブオイルの持ち味を生かして使い分けているようだ。
1本の木から約15〜40キロのオリーブが収穫され、そのうちオイルとなるのは3-8キロで、収穫されたオリーブの20%くらい。秋に長雨が続いたりすると、ひどい時には更に歩留まりが悪く13%くらいまで落ちる。品質の良いオリーブオイルを絞るためには、次の二つのことが大事だ。
① 手で摘むこと。
手で摘むことでオリーブを傷つけずに済む。収穫時にネットを敷いてオリーブの実が地面と接触するのを防いでいる。土地の人はこのネットを「パラカドゥータ」と呼んでいるが、実はパラッシュートと同じ意味。パラッシュートと同じ材質のものを使っているからだという。摘んだオリーブを集めるとそれなりの重さになるので、ネットは軽量な材質ものが作業し易い。
② 穫したオリーブの実は24時間以内に搾油すること。
木の枝から離れたオリーブは刻一刻と傷んでいくので、できるだけ早く搾油工程に載せる。ここが大事で、遅れれば遅れるほど、オリーブは酸化の度合いが高くなる。フラントイオといわれる搾油所は、トスカーナ地方では11月からクリスマスまでは24時間のフル操業になる。

 昔、アルベルト・ジャーキからオリーブオイルの手ほどきを受けた。テスティングはガラスの容器に15cc入れ、フタをして手で温めることから始める。28度前後で香りが立ち上がると言っていた。本来なら朝が理想だそうだが、その時は夕方だった。残念ながら、学んだことはあまり覚えてない。着色された容器は、オリーブオイルの鑑定会などで使用されるもので、中味の色が見えないようにわざわざ色が付けてある。
 プリーモ・オーリオは、11月の初旬に収穫されたオリーブを絞ったもので、香りが高い。アルベルトは、いわば原油ともいえるような緑色のオイルを搾油所から引き取って自分のところのタンクで静置させてから、瓶詰の直前に綿フィルターで濾過する。沈殿物(ほとんどが水)は、いかにも自然の象徴という感じだが、アルベルトによれば、いいことは何もないそうだ。もし濾過していないオイルを買うのなら、10-12度の温度に保管して、月に一度くらいはフィルターで沈殿物を取り除く。この沈殿物は健康を害するものではないが、オリーブオイル本来の品質を損ねる可能性がある。それに、捨てなければならない部分に代金を払う意味はないように思う。
 「栗は自分。ぶどうは子供。オリーブは孫たちのために」という諺がトスカーナ地方に伝わる。オリーブは、実をつけて油を絞れるようになるまでに、少なくとも5年を要する。樹齢35〜150年が生産性のマックスというから、やはり恵みを享受するのは孫たちになる。2〜3年に一度大火に見舞われた江戸の商人たちが、孫の代のために木材を予約していたという話にどこか通じるものがある。
 ジェヌイノーリオ(Genuinolio)は、いわゆる有機農法で得られたオリーブを搾油したもの。有機農法で造られたオイルだから体に良いとか、美味しいという謳い文句は、ジャーキの商品案内で見たこともないし、アルベルトの口から聞いたこともない。「環境に配慮した」農法で造られたオイルと言い換えれば、真実に近いのではないかと思う。有機農法で栽培されたぶどうでも、醸造工程ではほとんどの場合、酸化防止のために最低限の化合物は添加するので、「有機ワイン」という表示には違和感を覚える。一方、オイルはオリーブの実を潰して絞るだけの工程なので添加物は一切ない。ジェヌイオーリオはプリーモ・オーリオに似て、苦味と辛味があるが、香りにアーモンドやローズマリーがある。
 味覚は個々人によりさまざまで、美味しいか、そうでないかはバラバラであっていいと思う。しかし、味覚以前に食品として安全であるか、中味に偽装がないのか、これが肝心要。20年以上、何の問題もなくイタリア料理店で使われてきたジャーキのオリーブオイル。ここで誇らしげにお勧めしても自慢にはならないと確信する。

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